自然のまま。ありのまま。ひがしこうち旅

Vol.02

昭和が香る。お山の中の小さなフィルム映画館

大心劇場 館長 小松秀吉さん

扉を開けると、昭和が香る。この香りを、懐かしいと感じるのは一体どの年代までなのでしょうか。この香りが、初めて経験する香りになるのは一体どの年代からなのでしょうか。もうすぐ30歳を迎える私は、忘れかけていた子供の時の記憶の数々が、香りと一緒に襲ってきて、懐かしさに思わず目頭が熱くなったのでした。

高知県安田町。町の中心を流れる安田川は、水底の砂の1粒1粒が遠目からでもはっきり見える透明度で、ここでとれる鮎は品評会で全国1位に輝いた実績もあります。「びわの実のよう」と言われるほどの大粒の雨は、安田町に年間4000mmを超える降水量をもたらします。激しく降る雨は、水の引きが早く濁りにも強いという安田川の性質を育みました。このおかげで安田川ではダムを作らずとも川の水量が自然に調整されるのです。安田川は約30kmという短い川ですが、そのうち鮎が生息するのは24km。なんとほぼ全ての流域で、鮎が生き生きと泳いでいます。そんな類稀なる清流のほとりに、1軒の古い映画館があります。

「人生で大切なことは映画が教えてくれた。」高度成長期の映画の興成、そして衰退。

映画館の名前は大心(だいしん)劇場といいます。
全国的にも珍しい流し込みのフィルム上映を行っていて、何度もテレビにも取り上げられた地元で知らぬ人はいない映画館です。
上映する映画は、館長である小松さんの気分次第。
お客様からのご要望や、季節、思い出などを基に上映作品を決めます。
どんな映画に出会えるかは、その時まで分かりません。まさに、映画との一期一会を味わえる場所です。
この映画館を創立したのは、小松さんのお父さん。
小松さんが3歳の時だったそうです。
それから、小松さんの人生は映画と共にありました。人生、夢、恋。たくさんのことを映画から学びました。一時はスクリーンの中で生きていくという俳優の夢を抱かせたほど、小松さんにとって映画は人生の中心にあるものでした。
しかし、高度経済成長期を迎え、日本には娯楽が溢れました。ボーリングやカラオケ、ディスコ。家庭の中にも、今までなかった家電が現れ出します。テレビやラジオ。
かつては人々の娯楽の中心だった映画館からは、1人2人とお客さんが減り、映画館の数も1つ、2つと少なくなっていきました。
そしてその余波は、大心劇場にも。

小松さんが紡ぐのは、偶発的な映画との出会い。自分で選ぶのではなく、選んでもらう映画の楽しみ。

経営が立ち行かなくなった大心劇場は、無期限の休館に入りました。
しかし、その間にも新しい娯楽はどんどん生み出されていくし、東部地域からは人口がどんどん減っていました。
「もう無理だな。休館でなく、閉館だ。」
そう決めた小松さんはある日、備品の撤去のために、大心劇場にやってきました。
久しぶりに開く、劇場のドア。そのとき小松さんの鼻腔に入ってきたのは、あの懐かしい香り。
そして目に入ってきた、自分に人生を教えてくれた劇場の景色。
今は亡き時代を象徴する場所だ、そう小松さんは思ったのでした。
「だめだ。こんなところを、なくしてはいかん」
大心劇場が長い眠りから覚めた、復活の瞬間でした。
蘇った大心劇場には、全国各地から老若男女問わず、お客さんが訪れました。
この日訪れていたと50代の女性は、「ここに来ると、自分が生きてきた時代を感じることができるんです」と。
「どれを見ようか、じゃなくて小松さんが選んだ映画を見せてもらう。
偶発的な映画との出会いができたのは初めてでした」と20代の男性。
大心劇場では、小松さんを介して、人と映画がつながりあっていきます。

映画のあとは、映画館の歌でも一緒に口ずさもうじゃありませんか。

映画館の館長でありながら、実はシンガーソングライターでもある小松さん。
大心劇場の隣には、小松さんが経営される喫茶店があって、小松さんがギターを持って現れればたちまちコンサートホールに大変身。
小松さんが作詞作曲した歌を聴くことができます。
ギターが流れ始めると、お客さんはコーヒーを飲む手をしばし止めて、手拍子で加わります。
窓を見やれば煌めく安田川。水面に反射する光が差し込む明るい部屋で、みんな笑顔がこぼれます。この日、小松さんが歌ってくださったのは「大心劇場の唄」。
その歌詞は、大心劇場と歩んできた小松さんの想いが溢れる、あたたかな歌でした。

くるくるまわる、フィルム映画。今日も小松さんの想いをのせて、小さな映画館に明かりが灯ります。

山と川に挟まれた 自然がいっぱいな場所から
私は映画を写します 小さな光を消さぬように
壁いちめんにはポスターが むかしのにおいがただよう
こんな大心劇場に 今日もだれかがやってくる
少しカビくさい小さな映画館 一度あそびにきませんか 大心劇場に
いつまでもいつまでも 映画の灯を消さぬように 私は写します
少しでも少しでも お客さんの心を温かくさせたくて


映画を観に、歌を聴きに、自然を感じに。
全国にここだけの小さくてあたたかい映画館へ、ぜひいらしてください。

小松さんに出会える。

大心劇場

安田川沿いを馬路方面へ北上し、緑の山に囲まれた大心劇場へ。小松さんの選んだ映画を観に、昭和が香る懐かしい劇場へぜひお越しください。上映スケジュールなどは、URLから。

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